二重鎖形成により機能性分子を放出する情報発信型核酸の開発

2003 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 15750142
• 研究機関: 京都大学
• 研究代表者: 田邉 一仁 京都大学, 工学研究科, 助手 (40346086)
• キーワード: 遺伝子検出 / ヘアピン型DNA / 励起エネルギー移動 / 光分子放出反応

研究概要

近年、特定の塩基配列をもつ遺伝子の検出手法としてモレキュラービーコンに代表されるヘアピン型核酸プローブの開発が行われている。本研究では、このストラテジーを応用して、特定の塩基配列をもつ遺伝子が存在する時のみ機能性分子が放出される情報発信型核酸の開発を行った。
両末端に光分子放出部位(ニトロベンゼン誘導体)および光反応消光部位(アミノナフタレン誘導体)をもつヘアピン型DNA(H-DNA)を合成し、まずH-DNAの光反応の温度依存性を検討した。その結果、低温条件下では光反応はほとんど進行しないが、高温条件下では速やかに光分子放出反応が進行することが分かった。このことは、H-DNAは、低温ではヘアピン型を形成し光分子放出部位と消光部位が近接したため、励起エネルギー移動が起き、反応が抑制されたことを示している。一方、高温ではヘアピン構造が崩れ、二つの部位が離れたため、エネルギー移動が起きなくなった結果、光反応が進行したことを示している。
次に相補的なDNA (matched DNA)、一塩基ミスマッチ配列を持つDNA (mismatched DNA)および完全に非相補的なDNA (noncomplementary DNA)の共存下でのH-DNAの光反応を追跡した。その結果、matched DNAの存在下では、効率良く光分子放出反応が進行する一方で、mismatched DNAおよびnoncomplementary DNAの存在下では、光反応が著しく抑制されることを見い出した。このことは、H-DNAは、完全に相補的なDNAとのみ二重鎖形成し、二つの機能性部位が互いに離れた結果、光反応が進行し機能性分子が遊離したことを示している。
これらの結果から、H-DNAを用いることによって塩基配列情報を発信する機能システムを構築できると考えている。

研究成果

• [文献書誌] K.Tanabe, Y.Mimasu, A.Eto, Y.Tachi, S.Sakakibara, M.Mori, H.Hatta, S.Nishimoto: "One-electron reduction characteristics of N(3)-substituted 5-Fluorodeoxyuridines synthesized as radiation activated prodrugs"Bioorganic and Medicinal Chemistry. 11. 4551-4556 (2003)
• [文献書誌] K.Haruna, K.Tanabe, A.Ishii, W.-M, Dai, H.Hatta, S.Nishimoto: "Photo-induced DNA cleavage reaction characteristics of propargylic sulfones possessing an anthraquinone chromophore"Bioorganic and Medicinal Chemistry. 11. 5311-5316 (2003)
• [文献書誌] K.Tanabe, H.Nakata, A.Okamoto, I.Saito, S.Nishimoto: "Modulation of photo-triggered drug release by molecular beacon strategy"Photomedicine and Photobiology. 25. 41-42 (2003)
• [文献書誌] A.Okamoto, K.Tanabe, T.Inasaki, I.Saito: "Phototriggered drug release from functionalized oligonucleotides by a molecular beacon strategy"Angewandte Chemie International Edition. 42・22. 2502-2504 (2003)
• [文献書誌] A.Okamoto, K-Tanabe, I.Saito: "P-loop catalytically assisting the enzymatic cleavage of single-stranded DNA"Bioorganic and Medicinal Chemistry. 11. 3747-3751 (2003)