研究概要 |
本年度は、主としてアセトニトリル溶液中における様々なバナジウム錯体(Bis(maltolato)oxovanadium(IV)(VO(C_6H_5O_3)_2,VO(ma)_2),Bis(acetylacetonato)oxovanadium(IV)(VO(C_5H_8O_2)_2,VO(acac)_2)、およびシッフ塩基を配位子としたN-salicylideneamino acid vanadium(IV) complex([VO(sal(X)-R)(H_2O)],R=amino acid, X=salicylaldehyde and derivatives))の酸化還元挙動をサイクリックボルタンメトリーによって調べた。アセトニトリル中におけるVO(ma)_2のサイクリックボルタモグラムから、錯体のV^<IV>→V^Vに対応する酸化波(+400mV vs Ag/Ag^+)およびV^<IV>→V^<III>に対応する還元波(-2100mV)と、電気化学的には可逆ではないがV^<III>→V^<IV>に対応する再酸化波も観測された。溶液に酸やLi^+等のアルカリ金属イオンを添加すると、+400mV付近の酸化波にはほとんど影響が無かったが、-2100mV付近の還元波は、正電位側にシフトした。そのシフト幅の大きさはH^+>Li^+>Na^+の順であった。同様にVO(acac)_2および[VO(sal(X)-R)(H_2O)]のサイクリックボルタモグラムを測定した。その結果、錯体のV^<IV>→V^Vに対応する酸化波のピーク電位は、配位子が変わってもほとんど同じであった。また、V^<IV>→V^<III>に対応する還元波も同様に得られたが、V^<III>→V^<IV>に対応する再酸化波は得られなかった。その他、様々な電気化学的な研究を行った結果から、配位子の違いによる電気化学的酸化還元挙動の変化に関する多くの知見が得られた。 本研究に関連して、V(V)の反応性を調べるために、Keggin型のヘテロポリ酸錯体とV(V)との置換反応に及ぼす有機溶媒の効果を調べ、Si(IV)あるいはGe(IV)系では水より誘電率が大きい有機溶媒との混合溶媒中で置換反応が起こり、P(V)あるいはAs(V)系では、逆に水より誘電率が低い有機溶媒との混合溶媒中で置換反応が起こることが分かった。これは錯体の全体の電荷と有機溶媒の誘電率が関連していると示唆された。さらに濃厚塩溶液中の特殊反応性を調べるため、Dawson型ヘテロポリタングステン酸錯体の生成に及ぼす塩効果を調べた。その結果、塩を加えることによって、Dawson型錯体の生成量が増えることが分かった。
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