研究概要 |
深さ分解XMCD法は,円偏光X線を用いて吸収スペクトルを測定する際,X線吸収に伴って放出されるAuger電子が出射角によって異なる検出深度を持つことを利用して層ごとの磁気構造を調べる手法である。従来はそれぞれの検出角でいちいちスペクトルを測定していたので測定に膨大な時間がかかるとともに,精度もあまり高くなかったが,今回イメージング型の検出器を導入することで,異なる検出深度をもつスペクトル群を一度に得ることができるようになった。これによって,測定時間を10倍以上短縮することができた。 次にこのシステムを用いてCu(100)表面上に作成したFe薄膜を測定し,Feの膜厚が7原子層程度の場合には,表面2層のみが強磁性的にカップルしており,それより内部はスピン密度波を形成していることを直接的に明らかにした。さらに,内部のスピン密度波が200K程度で消失して非磁性的になることも確認した.また,表面と内部でXMCDスペクトルの形状に違いがあることを見出し,内部層に特有のピークを発見した。 さらに,Cu(100)表面上にNi, Feの薄膜を順次成長させて作成した,Fe/Ni/Cu(100)についても測定を行った。その結果Feの表面の磁化がFeの厚さによって正負に振動するのに対し,Niとの界面にあるFeは常に同じ方向の磁化を示すことが明らかになった。これにより,Feの表面と界面が非磁性な内部層を介して振動的に交換結合していることが明らかとなった。このような単一元素からなる薄膜の中での交換結合を,深さ分解XMCDによって初めて直接的に明らかにすることができた。
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