電子遷移のパリティ許容化を目指して、非対称ユーロピウム(III)錯体を合成した。このユーロピウム錯体は発光量子効率向上のための低振動配位子HFA(ヘキサフルオロアセチルアセトナト)と非対称配位子場を提供するリン酸配位子TPPO(トリフェニルホスフィンオキサイド)から構成されている。この錯体のX線構造解析の結果、配位構造は非対称型(反転中心対称をもたない)8配位スクエア・アンチプリズム構造を有していることがわかった。このユーロピウム錯体をポリメタクリル酸メチルにドープした系において、その発光は電子双極子遷移が極めて増大していることを明らかにした。その発光量子収率は75%と極めて高く(重水素化アセトン中では99.7%)、発光速度はレーザー発振媒体であるNd:YAGと同程度であることがわかった。錯体構造の非対称性については、理論解析(ジャッド・オーフェルト解析)により本錯体の電子遷移許容化が著しく増加していることがわかった。 さらに、この非対称型ユーロピウム(III)錯体を含むポリスチレン薄膜をガラス基板上に作製し、光励起を行うことにより、世界で初めてのユーロピウム(III)錯体からのレーザー発振に成功した。レーザー発振のためのしきい値は0.05mJであり、この値はこれまで報告されているレーザー発振しきい値の中で最も小さい値であることがわかった。錯体構造の非対称性が光物理現象であるレーザー発振の特性に影響を与えていることを世界で初めて明らかにした。
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