マラカイトグリーンは紫外光照射によりプラスの電荷を生じるフォトクロミック化合物である。長い分子鎖を持つマラカイトグリーン誘導体は、光イオン化したマラカイトグリーン部位が親水基として長鎖アルキル基が疎水基として働き、光照射によって両親媒性が発現すると考えられる。本研究では、長鎖アルキル基を持つマラカイトグリーンによるミセル形成の光制御を目的とした。 長鎖アルキル基を持つマラカイトグリーン、Bis[4-(dimethylamino)phenyl][4-(hexadecyloxy)phenyl]methanenitrileの分子設計を行い、合成に成功した。合成収率は27%となった。 長鎖アルキル基を持つマラカイトグリーンは、光未照射時は脂溶性有機物であるため、水溶液への溶解性に乏しい。そのため、サンプルにはカチオン性界面活性剤である塩化セチルトリメチルアンモニウム(CTAC)を補助剤として用いた。長鎖アルキル基を持つマラカイトクリーンは、このカチオン性界面活性剤と同じ炭素数の疎水基を有するため、ミセル形成の制御に効果的であると考えられる。ミセル溶液にはpH緩衝液が必要となった。pH4以下では光照射を行わなくてもマラカイトグリーンがイオン化してしまうこと、pH5以上ではイオン化したキノイド体がすぐに水酸化物イオンと結合し電荷が消失してしまうことが、吸収スペクトルにより明らかとなったためである。 長鎖アルキル基を持つマラカイトグリーンを含むCTAC溶液の臨界ミセル濃度を求めたところ、0.1M酢酸バッファー中(pH4.8)で0.6mM、紫外光を15分照射し定常状態になったとき、0.1mMと減少した。光イオン化した長鎖アルキル基を持つマラカイトグリーンがカチオン性界面活性剤としてミセル形成に寄与したため、臨界ミセル濃度が減少したと考えられる。
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