3年目の本報告では、全体を総括した結果を示す。 まず、初年度に行ったゼオライト(LSX)にMn^<2+>をイオン交換したMn_<48>LSXでは、5〜300Kにおいて常磁性であった。本年度は、遍歴電子を系内に導入するため、硝酸銅を含浸させ焼成したCuO-Mn_<48>LSXと10%H_2/Ar中で還元したCu-Mn_<48>LSXについて磁気物性を測定した。しかし、Mn_<48>LSXと同じ温度領域で磁化の変化もなく常磁性しか示さなかった。この結果、期待した遍歴電子系強磁性体を得ることができなかった。この結果の一部を表面(印刷中)に投稿している。 次年度には、バルクで反強磁性-常磁性転移を示す二酸化マンガンをメソポーラスシリカに導入したMnO_2/MCM-41を調製した。バルクでは、100Kにネール温度を示すが、メソ細孔内に存在するMnO_2は、50Kにネール点があり、50K以下で強磁性と反強磁性が混在していることがわかった。メソ細孔内のMnO_2は、γ-MnO_2相に50%のβ-MnO_2相がdefectとしてランダムに存在している構造をとっていた。このdefbct量を変化させ75%のβ-MnO_2相を含むMnO_2/MCM-41-Pr=75では、10Kにキュリー点を示し、強磁性-常磁性転移しか観測されなかった。メソ細孔内では、空間の制約があるためナノ結晶として二酸化マンガンは存在していると考えられる。そのため、サイズ効果によりバルクとは異なる磁性を示したと考えられる。また、β相とγ相の間の強相関相互作用による磁性が発現したことも原因であると考えられる。 以上のように、遍歴電子系での強磁性体を調製し、その物性を解明することを目標としていたが、目的とする機能の発現を確認することはできなかった。しかし、強相関相互作用によるナノ結晶の磁性について興味深い知見を得ることができた。
|