本年度は、深紫外光に対応した走査型近接場光学顕微鏡(SNOM)システムの作製およびその性能確認を中心に行った。本顕微鏡の要であるプローブは、純粋石英コアを有する光ファイバから自作した。また信号検出のための光学系をすべて純粋石英製の素子で設計・作製した。これにより、波長にして240-900nmの広帯域で測定可能なSNOMを構築することができた。システムの性能評価のため、粒径100nmのポリスチレンビーズの観察を行ったところ、十分な強度の蛍光SNOM像を得ることができた。従来の高分解能顕微鏡では、ポリスチレンは染色無しで直接観察することができなかったが、本システムを用いることで、非染色でポリスチレンの観察を行うことができた。その分解能もおよそ50nmと、励起光源(266nm)の回折限界値を超える高い空間分解能が達成されていることが示された。また、ポリスチレンだけでなく、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネートなど工業的に重要な高分子材料についても、そのナノ構造を特別な前処理を行うことなく、直接観察することに成功した。さらに、タンパク質やDNAなどの生体分子についても深紫外域で吸収を持つことから、細胞試料についても非染色で観察を行うことができた。 以上のように、重要な要素技術をほぼ確立することができた。今後の課題としては、単一分子検出を目指した高感度化および高分解能化が挙げられる。また細胞観察への応用という観点からは、生きた環境下すなわち液中での観察が不可欠となってくるため、液中動作の実現も次年度の課題としてあげられる。
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