研究概要 |
申請したマグネトロンスパッタ源および電源を組み合わせることで,超高真空スパッタ製膜装置を作製した.装置の仕様は,到達真空度が1×10^<-8>Torrであり,基板温度は可変(-20〜600℃)とした.また,多層膜作製用に三元同時スパッタ可能とし,メインチャンバーを大気暴露することなく試料の搬送ができるように試料導入のためのロードロックを設置した. 製作したスパッタ装置および東北大学の装置を用いて,スピンダイナミクスを調べるための高品質の磁性体(80NiFe)/非磁性体(Cu)多層膜の作製およびその作製条件の検討を行った.スピンダイナミクスの評価には,電子スピン共鳴装置を用いた強磁性共鳴(FMR)を行った.FMRの測定結果から,多層膜の膜質は製膜中の基板温度によって大きく変化することが分かり,1nm程度の非常に薄い良質の磁性層の作製に成功した. 最適化した製膜条件を用いて,層厚を様々に変えたCu/80NiFe/Cu多層膜及びCu/80NiFe/Cu/Pt多層膜を作製し,FMRの磁場角度依存性および試料温度依存性を調べた.磁性膜のスピンダイナミクスを特徴付けるギルバートダンピング定数は,Cu/80NiFe/Cu多層膜では低温で減少するものの,Cu/80NiFe/Cu/Pt多層膜のギルバートダンピング定数の温度依存性は中間Cu層厚に依存することが分かった.この実験結果は,中間Cu層内の伝導電子スピンが位相情報を失わずに拡散する距離,すなわちスピン拡散長が温度に依存して低温で増大することを考慮すれば,報告者および幾つかのグループの提案しているスピンポンピング理論と矛盾しない.
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