本研究は、従来法では困難な微量試料の磁気構造解析を実用レベルに押し上げることを目指し、非共鳴X線磁気散乱の新規測定法を開発することを目的として実施された。研究代表者は、従来の偏光解析結晶による偏光解析のプロセスを試料結晶自身によって行うことにより、X線の回折過程を一段階省略し測定強度を100倍近く飛躍的に向上させる新規測定法を開発し、「構造因子テンソル要素決定法及びそのためのX線回折装置利用法」として特許権の申請を終えた。 本年度は、微小結晶や薄膜の磁気構造解析を進展させるために、検出系のS/N比を向上させることを当初の課題に設定した。しかし、開発した新規測定法の測定対象は反強磁性体に限定され、応用上重要な強磁性体の磁気構造解析には適用できないという問題も存在していた。この問題の解決には、Γ点上に重なって現れる電荷散乱強度と磁気散乱強度を分離して測定する必要がある。その実施には、試料の磁化或いはX線の偏光を反転させ回折強度の変化を調べる反転比測定が有効である。本年度は、非共鳴X線磁気散乱の測定対象拡大に貢献するこの反転比測定の実用化研究において進展があった。 本研究で使用しているBL46XU/SPring-8では反転比測定に必要な円偏光X線が利用できないことから、このビームラインでの反転比測定は極めて困難である。ところが、結晶が対称心を持たない磁性体の場合は、例外的に直線偏光X線を用いて反転比測定を行なうことが可能である。研究代表者は、不斉配位子により不斉誘起され不斉な結晶構造(P2_12_12_1)を持つ分子磁性体[Cr(CN)_6][Mn(S)-pnH(H_2O)](H_2O)を用いることで、直線偏光X線を用いた反転比測定に成功した。この成果は、開発した新規測定法が強磁性体にも適用できることを実証したものであり、非共鳴X線磁気散乱において反転比測定が重要であることを示している。
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