本研究は、光通信波長帯での半導体光増幅器(SOA)の超高速なキャリアダイナミクスを測定する手法を開拓し、光信号処理のための機能素子としてのSOAの特性の解明を行うことを目的としている。 本年度はまず測定に用いるパルス光源の開発を行った。1.5μm帯の光パラメトリック発振器(OPO)からの出力される光パルスを長さ1mの正常分散光ファイバに入射して、300nmの10dB幅を持つスーパーコンティニウム(SC)光を発生した。そしてSC光のほぼ線形のチャープを補償する長さの異常分散ファイバを伝播させることで、半値全幅が43fsの極短光パルスに圧縮した。これらの実験結果は、光カー効果を含んだ非線形シュレーディンガー方程式を、光ビーム伝搬法を用いてシミュレートした結果と良く一致していた。また、得られた極短光パルスから任意の波長の光を切り出すために、35nmの半値全幅の光バンドパスフィルタ(BPF)に通したところ160fs程度のパルス幅になった。切り出す波長がOPOの波長に近くなると、切り出された光パルスの波形が歪むことが分かった。 この光パルスを用いて、広い利得波長帯域を実現するためにバンドギャップの異なった多重量子井戸構造を活性層に有するSOAのキャリアダイナミクス測定を行った。任意の波長の100fs程度の短パルス光を用いてポンプ・プローブ測定を行うことで、キャリアの再結合時間とキャリアヒーティングの波長依存性を測定した。測定結果から高エネルギーである短波長側の量子井戸ほどキャリアの回復が遅く、キャリアヒーティングの波長依存性は小さいことがわかった。さらに高速なスペクトルホールバーニングを測定するためには、この測定では時間分解能が足りず、BPFでプローブ光パルスを切り出すのではノイズが多いことも分かった。100fsを下回るような極短パルス光を用いて、プローブ光パルスを明瞭に切り出す測定法が必要である。
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