研究概要 |
本計画では,強い電子間相互作用を含む系,とりわけ遷移金属化合物における熱電応答と電子の電荷,スピンそして軌道自由度との関係を調べた.まず注目したのは,新たな熱電変換材料として有望とされているNaCo_2O_4の熱電応答を理論的に調べた.これは典型的な強相関電子系であり,その伝導および磁性はCo^<3+>とCo^<4+>の局所的な電子状態に立脚している.我々は,この系の熱起電力を調べるに当たり,高温極限からのアプローチをとった.この研究で,強相関電子系の熱電応答におけるスピンと軌道縮退の役割について,以下のようなことが明らかとなった.電子間相互作用が強い極限でのキャリヤーの運動は,含まれる電子の個数がひとつ違う単位胞間での電子の飛び移りとして表現される.これはまた,見方を変えると,電子の個数がひとつ違う単位胞の並べ替えとして表現できる.このとき電荷は単位電荷分しか移動しないが,縮退の移動分は各単位胞の縮退度の兼ね合いで決まる.この縮退の移動分の大小は,そのまま,熱起電力に反映されるのである.これは,強相関電子系における熱電応答の特徴のひとつである.我々の理論はNaCo_2O_4の熱電応答を定性的なだけでなく定量的にもよく説明した. 2003年,物材機構の高田らは,水和したNaCo_2O_4に超伝導を発見した.これを契機にNaCo_2O_4の電子状態の研究は,以前にも増して盛んになっている.我々は,この系を記述する有効ハミルトニアンを構築し,その電子状態を詳細に調べた.その結果,結晶構造の対称性を反映した特異な格子構造をこの系は内蔵していること,伝導に寄与する3dt_<2g>軌道の縮退が磁性と伝導に重要な役割を果たしていることを明らかにした.この理論は,NaCo_2O_4のバンド構造をよく説明する.
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