研究概要 |
本研究では,(1)外部磁場が血流中の赤血球の力学的特性(配向分布,レオロジー特性及び凝集構造)に及ぼす影響を明らかにすること,(2)血流中の赤血球の力学的特性を解析するための標準となる数理的モデルを構築すること,を目的としている.本年度は,これらの目的達成のための第一段階として,これまでに著者らが構築した強磁性コロイド分散系でのモデルを赤血球の力学的挙動解析のプロトタイプとして応用することを計画していた.これまでに著者らが構築したモデルは,単純せん断流中における強磁性棒状粒子からなる非希釈コロイド分散系の配向分布とレオロジー特性を解析するためのものであった.しかし,このモデルは,せん断流に対し外部磁場の方向が限定されたものであった.そこで,まず,任意の方向から外部磁場が作用する場合を議論できるようにするために,これまでに考慮していなかった,せん断流と外部磁場の方向が同一である場合,外部磁場の方向がせん断流の回転角速度ベクトルと同一である場合について,配向分布とレオロジー特性を調べた.(前者についての結果は,日本機械学会論文誌に掲載され,後者については,現在,投稿準備中である.)これらの結果から,三次元空間中の線形独立な三方向の特性が得られたので,これらを組み合わせることにより,任意の方向の外部磁場の影響を議論することが可能となった. 一方,コロイド分散系モデルは,多粒子間相互作用については,平均場近似を採用している.現在,平均場近似の妥当性は,系が非希釈で,ある程度の凝集構造をもっている場合以外には明らかではない.本年度は、コロイド分散系モデルを赤血球の系へ応用することを意識し,最も単純な場合として相互作用を及ぼしあう多数の剛体球の振舞いを解析した結果(日本金属学会論文集掲載)との比較を行い,平均場近似の適用範囲や平均場近似に代わる最適な解析法を探った.この結果から,力学的特性に影響を及ぼす主要因子や物理現象を考慮することによって数値計算を効率よく行うためのポイントなどの手がかりが得られた.
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