本年度の目的は、分子動力学専用計算機MDGRAPE-2を利用して、高速アルゴリズムに従う境界要素法を高速化する事である。まず、昨年度検討した2次元Laplace方程式の場合の要領で、2次元Helmholtz方程式におけるツリー型境界要素法を擬似粒子法によって加速する事を検討した。その結果、計算量のオーダーは従来と変わらない事、むしろ正味の計算量は増加してしまった。これは、多重極展開の打ち切り項数の波数に依存すると言う解析上の性質に根ざす。 この結果より、対象とする方程式の解析的な性質に依存しないような手法を通じて、高速アルゴリズムに従う境界要素法をMDGRAPE-2によって加速する事が重要であると考えた。そこで、高速アルゴリズムとしては高速多重極法を前提として、一つの併用的高速化手法を提案した。それは、リーフ(8分木構造の末端のセル)に関するM2L計算を全て直接計算で置き換え、その計算をMDGRAPE-2によって実行する、と言うものである。この手法は、個々の方程式の解析的な性質に依存しないと言う条件を満たしている上、計算量のオーダーは元と同じである。また、特異積分に関するホスト計算機の処理が発生しないためにMDGRAPE-2の計算負担量をより高める事が出来る。また、既存の多重極コードを部分的に変更するだけで済む。実際に3次元Laplace方程式に適用した所、MDGRAPE-2sボード1枚の利用により10%程度の高速化を達成した。 本研究を総括する。本研究は、既存の専用計算機MDGRAPEを利用すれば、偏微分方程式の有力な数値解法の一つである境界要素法を大幅に加速できる事を明らかとした。この際、ポテンシャル問題、スカラ波動問題、静弾性問題および電磁波散乱問題について具体的に検討した。また、MDGRAPE-2と高速アルゴリズムとの併用的手法も有望であるとの結論も得た。
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