研究概要 |
申請者は,これまで,円弧状狭窄で模擬した毛細血管を通過する好中球モデルの通過特性を数値的に解析し,その通過時間を見積もる数学モデルを構築してきた.これを実験的に検証するため,本年度は,フォトリソグラフィ技術を用いて石英ガラス平板上に微小流路を作成し,血球の変形,流動を観察するシステムを構築した.本システムにおいて,流路は,便宜的に,6μm間隔で一列に並んだ円柱の隙間とし,その隙間を流れる血球の様子を光学顕微鏡に取り付けられたビデオカメラで撮影した. まず,抗凝固処理した血液より多核顆粒球を分離し,生理食塩水に懸濁したものを用い,顆粒球の流動観察を試みた.システムにおいて,血球の駆動には流路の上流,下流に設けたタンクの水頭差を利用したが,数値解析と同一の圧力差を与えることが非常に困難な上,血球が想定していたよりも固かったために流動を観察することが不可能であった.そこで,流路下流側にシリンジポンプを設置し,血球に赤血球を用いて観察を行った.その結果,血球流動を詳細に観察することが可能となった.また,ビデオカメラで撮影した画像を処理し,各時刻における血球の重心を求めることにより,血球の流動速度を計測することが可能となった.赤血球は両凹円板形状をしており,流路に進入する際の血球の向きによりその通過速度が変化した.血球の対称軸が円柱の中心軸および流路の軸と垂直な場合は,流路通過に伴う血球の変形量が少なく,血球は血漿の流れに乗って比較的短時間で通過するが,それ以外の場合では,血球の変形抵抗のために,流路の縮小部において一旦速度が低下することが示された.
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