研究概要 |
分子動力学法を用いた解析により接触線付近の応力分布と接触角との関係を明らかにした。解析は2つの互いに混ざり合わない流体を2枚の平行平板間に挿入した体系で行った。そして平行平板を逆方向に一定速度で移動させることによりCouette流れ状の境界条件を作り出し、その際の接触線の挙動について詳細に調べた。 接触線および界面付近では大きなせん断応力が発生している。この応力の要因を明らかにするために応力の主軸を求めた。その結果、流体界面では界面に平行に、壁面付近では壁面に垂直な成分が大きな要因であることが明らかになった。 壁面付近では流体は壁面に平行な層状構造を形成しているが、この構造は界面や接触線のごく近傍まで持続している。壁面と流体との間に働くせん断応力はこの層のうち、一番壁面に近い層(第1層)にしか及ばない。このせん断応力は前進接触線付近を除いたすべての領域で平板速度と層内流体の平均速度の差に比例した。この結果はQianらの結果(2003, Phys.Rev.A)と一致する。このときの比例定数を(流体の粘度/代表長さ)であらわしたとき、代表長さの大きさはおおよそ第1層と壁面距離と同程度の大きさであり、また、濡れ性が大きくなると代表長さは小さくなることが明らかになった。一方、前進接触線部分では壁面と流体との接線応力はほとんど0のままであった。二流体界面の接触線においては、その接触線に対して前進する流体と後退する流体の二つが寄与することになるが、上記の結果から前進流体の粘度が後退流体に比べて著しく大きくはない限りにおいては、接触線付近での壁面-流体間応力は後退流体の物性を用いればよいことが明らかになった。このことを、接触線における力学バランスに考慮したモデルを考案した結果、分子動力学計算における動的接触角をよく再現した。
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