弾性体、熱伝導場あるいは流れ場などの連続体領域形状を設計対象にした形状最適化問題は、機械構造物を設計する上で重要な問題である。これまでに筆者は、(i)応力緩和を目的とした弾性体の形状最適化、(ii)損失エネルギーが最小となる粘性流れ場の流路形状最適化、(iii)熱伝導場の部分境界において放熱量が最大となる形状最適化、(iv)熱伝導場における温度分布が、目標とする分布に一致するように形状を決定する形状同定問題などに対して、数値解析法を提案しその手法の有効性を示してきた。これまでの研究対象は、いずれも弾性・伝熱・流れ場が連成しない基本的な問題に対する検討であった。本研究では、筆者らが実施してきたこれらの形状最適化の研究を、初めて連成を考慮した問題に拡張を試みた。 本年度は主に、伝熱と弾性変形を連成させた次の二つの問題に対して検討を行った。 (1)熱弾性場において変位分布を規定する形状同定 熱弾性場の部分境界での実熱変位分布と、規定したい熱変位分布との2乗誤差最小化を目的汎関数として設定し、それを最小化するための形状決定問題を定式化した。この問題は、熱変形分布が目標とする分布に一致するように、形状を決定する形状同定問題の一つになっている。次に、Lagrange乗数法あるいは随伴変数法および物質導関数を使用して、形状修正のための感度関数を理論的に導出した。導出した感度関数を用いた解法のアルゴリズムを提案してプログラム開発を行い、二次元問題の解析例から提示した解法の妥当性を確認した。 (2)熱弾性場において動ひずみによる変形最小化:剛性最大化を目的とする形状最適化 熱弾性場の全領域において定義されたポテンシャルエネルギー最大化問題(剛性最大化を目的とする形状最適化)を取り上げ、上の変位分布規定問題と同様に、形状修正のための感度関数の導出、解法アルゴリズムの提案を行い、数値解析から本手法の妥当性を確認した。また本解析では、汎用有限要素解析プログラムANSYSを用いた解析システムを開発した。
|