本研究の大目的は、上記の薄鋼板の完全非接触浮上搬送を実現することである。そのために、既に研究代表者らによって行われている磁気浮上制御方式を実現し、実験を通して可能性を明らかにすることが必要不可欠であり、本研究の1つの目標である。具体的には、カスケード結合する電磁石を、ギャップの差をゼロにするように制御する2指令複合型制御系と、鋼板の振動をリアルタイムに有限要素法で計算し、その結果を制御リファレンス値として用いる制御系との、2種類の方式についての検討を行う。また、これらに用いるそれぞれの電磁石に永久磁石を組み込み、ゼロパワー(平均電流ゼロ)制御を行うことによって消費電力を最小に抑える試みも同時に行う。これらを総合して、磁気浮上搬送に必要な要件を明らかにし、搬送を実現させることが、本研究のもう一つの目標である。 平成15年度においては、まず、薄鋼板の磁気浮上を実現できる可能性がある各種の制御方法を実際に試みるために、磁気浮上実験装置を試作し、浮上実験を行った。購入した直流安定化電源を電磁石の制御電流源として用いた。また、購入したレーザ位置センサを用いて浮上対象の位置を測定した。電磁石の発生力を厳密に評価するために精密zステージを用い、さらに個々の電磁石に印加される電流をクランプ型電流計で測定した。以上の装置を用いた実験により、薄鋼板の搬送に必要な磁気浮上システムの性能と制御構造が明らかになった。 次年度以降は、前年度に得られた薄鋼板磁気浮上の基本特性をさらに改善し、これと並行して磁気浮上搬送を実際に行う軌道と台車の設計と製作を行う。また、実際に走行時の特性を取得し、搬送品質の評価を行う必要がある。搬送速度・加速度と鋼板に生じる振動との関係を測定し、高品質の薄鋼板非接触搬送を可能にする条件を、明らかにする。
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