研究概要 |
本研究では,優れた温度安定性を有するランガサイト(LGS)基板に対して,高密度薄膜装荷による弾性波エネルギートラッピングを利用し,ラブ波の高結合化を図ること,同時にバルク波放射損失と伝搬損失の大幅な低減を図ること,これらと基板の温度安定性を利用して高結合・高安定・低損失の基板構造を提案する.本年度は「高結合化」と「温度安定性」について成果を得た.まず,オイラー角(0°,θ,90°)のLGS上に形成されたAl電極上に高密度Ta_2O_5薄膜を装荷した場合と電極をAuで形成した場合の結合係数を検討した.理論計算の結果,これらの薄膜装荷により結合係数は最大で1.0%まで増大することがわかった.実際にθ=20°の基板を用いて結合係数を測定した結果,Ta_2O_5装荷では0.047λ(λ:ラブ波波長,20μm)の膜厚において0.61%,Auで電極を形成した場合では0.015λの膜厚において0.80%の値が得られた.これらの値は従来のSTカット水晶と高密度金属を組み合わせたラブ波の値の2〜3倍の値である.次に,恒温槽に設置した試料の周囲温度を変化させ,基準温度(20℃)の周波数f_0に対する周波数変化率(Δf/f_0)を測定した.計算結果に従って,Au膜厚が0.008λのとき,ゼロ温度特性(頂点温度が20℃)を示し,20℃から60℃までの周波数変化が約100ppmの放物曲線が得られた.これはSTカット水晶上のラブ波の周波数温度変化とほぼ同等の安定性である.また,Ta_2O_5膜厚が0.021λのとき頂点温度が40℃付近の放物特性が得られた.Ta_2O_5膜厚が厚くなると周波数変化が増加し,Ta_2O_5はAuと同様に正の遅延時間温度係数を持つことがわかった.このことから,Ta_2O_5/Al装荷においても調整によりゼロ温度特性が得られることを明らかにした.
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