1.破壊に至るまでの空間電荷測定システムの構築と測定 絶縁体中の空間電荷を測定した報告は多数あるが、そのほとんどは非破壊で低電界によるものである。本研究では絶縁破壊に至るまでの空間電荷測定システムを構築し、空間電荷形成を絶縁破壊に至るまで測定した。その結果、空間電荷測定を用いた絶縁破壊試験において電極電界が最大となる時点では生じなかったことなどから、有極性高分子であるエチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)の絶縁破壊のメカニズムとしては電子的破壊よりも、試料内に発生または注入されるキャリアが伝導電流を上昇させ、絶縁破壊に至らしめる過程が示唆された。 2.キャリア移動度の測定 空間電荷測定法を用いてEVA中のキャリアの移動度を測定した。バイアス電圧に重畳した「励起パルス』電圧によって電極から注入された電荷塊の動きを位置分解能を有するパルス静電応力法により追尾した。その結果、フィルムが吸水することによりキャリア移動度が増加し、その移動度はEVAフィルム中の水分濃度により変化することがわかった。これには、極性基を有する水分子が試料内においてキャリアのホッピング・サイトとして作用している可能性が示唆された。また、高電圧を一度経験したEVAフィルムはそれを経験していないEVAフィルムに比べ、キャリア移動度が高くなることがわかった。この要因として次の2つが考えられた。(1)高電界印加中に注入された電荷が捕獲準位を埋めたまま残留するため、その後に注入された塊状電荷の見かけ上の移動度が大きくなる。(2)高電界印加中に解離キャリアが発生し、これが注入キャリアに比べ動き易い場合、その後に注入された電荷塊を中和するようにキャリアが移動するため、空間電荷が速く動いているように見える。
|