申請者は、医学・工学・理学・産業などきわめて幅広い分野における開発・解析ツールとして非常に重要である放射線検出器として超伝導トンネル接合素子に着目した。超伝導トンネル接合素子は既存の半導体検出器と比較して、数十倍優れたエネルギー分解能と桁違いな計数率が期待される次世代型の検出器として注目を集めている。優れた性能を持つにもかかわらず、その実用化はまだなされていない。その理由として、超伝導トンネル接合素子を検出器として動作させる場合、素子に対して磁場を印加する必要があり、この磁場に対する取り扱いにくさが挙げられる。従来、磁場を印加するためには、寸法の大きな鉄心型電磁石などが用いられてきた。申請者らは素子上に超伝導コイルを集積することで、電磁石と同等の磁場を、安定かつ簡易的に印加する方法を考案した。これをコイル集積型超伝導トンネル接合素子と呼び、この新しい構造をもつ素子の開発により、超伝導トンネル接合素子の実用化への道が切り拓かれることが大いに期待される。 本研究では、コイル集積型超伝導トンネル接合素子についての基礎開発を目的とした。今年度は、コイル集積型超伝導トンネル接合素子の作製を行い、素子上に集積された超伝導コイルに対して、安定に電流を通電できることを確認した。また、素子上に集積していた磁場印加用コイルを素子直下に集積する素子作製を次年度に計画している。コイルなどの平坦化には従来、CMPなどが用いられているが、この装置を用いる場合、高額かつ大規模になる。これに代わる簡易的な平坦化のためのツールとして、スピンオングラスに着目して、再現性のよい安定した成膜条件を見出した。
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