電磁界における大規模問題解析によく使用される高速多重極展開法とは、離散化されたそれぞれのセグメントの全ての相互結合を直接的に計算するのではなく、幾つかのセグメントをそれぞれまとめてグループ化し、特に、遠方に位置するセグメントどうしの相互結合に関しては、それぞれが属するグループどうしの相互結合を計算することで、計算時間を短縮することが可能となる手法である。本計算手法は、その計算時間が高速化されるという利点がある一方で、特に、近いグループ間での相互結合を計算する際に、誤差が大きくなるという問題点が指摘されていた。特に、1つ隔てたグループどうしでの相互結合の計算に関しては、高次のハンケル関数の発散性に起因した誤差が最大となり、トランケーションナンバーを最適化したとしても、高精度な計算は不可能である。 今回の研究では、本計算手法における誤差の見積りを実際に行い、位置的に近いグループどうしでの相互結合の計算誤差が大きいことを具体的に示した。更に、近いグループどうしでの相互結合を計算する際には、誤差が少なくなる新たな代替計算手法の提案を行った。すなわち、高次のハンケル関数の発散特性が、大きな誤差の要因となっているが、ベッセル関数の収束性は、この高次のハンケル関数の発散性を打ち消す効果があるので、ハンケル関数とベッセル関数との積を利用した表現式を用いて、誤差の低減を図る手法を提案した。また、この計算手法において、現れる円柱関数どうしの積を近似的に表現する簡易近似表現式の導出を2次元問題及び3次元問題の両方の場合に関して行った。この表現式を用いた結果は、シミュレーションの結果と非常によく一致していることを確認した。また、この式は、グループサイズに依存せず、バッファーナンバーのみによって決定されるという新たな事実も発見した。従来よりも、より高速かつ高精度な計算が可能となった。
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