研究概要 |
平成15年度は,高S/N受音システムの構築の1つとして平均2乗誤差最小化基準で最適なフィルタ係数をもつ多チャネル線形フィルタの学習法として,位相情報に基づく手法,振幅比に基づく手法,受信音の類似度に基づく手法について検討した。これらの手法は,受信音のみから線形フィルタの学習のための教師信号を作成するために,上記3つの指標を用いる。第1に位相情報に基づく手法では,低S/N環境ほど音源定位結果のばらつきが増大することに注目し,マイクロホン間の位相差のばらつきを指標として教師信号を作成した。第2に,振幅比に基づく手法では,低S/N環境では目的音成分に重畳する雑音成分の位相がばらつくため,結果的にマイクロホン間の振幅間にばらつきが生じることになる。そこで,マイクロホン間の振幅比を計算し,その平均値を指標として教師信号を作成した。以上,2つの手法は低S/N環境におけるS/N改善法であり,提案法により受信音の強度変化をそのまま利用する従来法に比べ,3[dB]以上のS/N改善が可能となった。第3の手法は,高S/N環境におけるS/N改善を目指して検討した手法であり,S/Nが高いほどマイクロホン間の相関係数値が1に近づくことに注目し,相関係数の平均値を利用して教師信号を作成した。その結果,第1および第2の手法と比べ,高S/N環境におけるS/N改善度を向上させることを可能にした。また,騒音源が移動した場合に数値的に安定にS/N改善を行なうことについても検討した。本手法では,フィルタ係数の取りうる範囲を制約条件としてもつ内点最小2乗法を用いたフィルタ係数更新法を適用することにより,騒音源位置が急激に変動した場合においてもRLSアルゴリズムのような従来法で生じた数値的不安定性を改善できることを示した。
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