本年度得られた研究成果は大別して以下の2点になる。 1)均質な群ロボットの分業における比率制御のための動的遷移確率モデルの提案および検証実験 年度当初の計画では、齢差分業を重視してストック物質を導入した動的ポテンシャルモデルに関する実験を行うものとしたが、本年度、多くの議論と考察を通して、より簡潔なモデルの考案に至ることができたため、主にそのモデルの有効性をシミュレーションと実験を通して評価した。状態間の遷移確率をストック物質の濃度に応じて動的に変化させる「動的遷移確率モデル」は、目的の比率制御ができることに加え、遷移確率を非対称にすることで、齢差分業も記述でき、かつロボットシステムなどへの適用も容易であるといった特徴がある。その有効性について、シミュレーションならびに、当方が開発したロボット実験用仮想動的場(V-DEAR)を用いた定性的な検証実験を行った。ストック物質の種類、濃度をV-DEAR上で、光の波長と強度で表し、ロボットはその光情報に基づいて次の行動を決定するという実験を通して、本モデルの実用性ならびにロバスト性を示した。 2)フェロモンを導入した交通流の基礎実験 交通流に関する研究は、身近さ、実用性、物理現象としての興味深さから、多くの研究者によって様々な側面から研究を進められている。Nishinariらは移動体がフェロモンを散布しながら移動する系の振る舞いについて理論的側面から大変興味深い解析を行っている。特に、フェロモンの蒸発率によって、系における移動体の密度に応じて流量が急激に増すという非線形現象を見出している。本現象の実空間における再現性を探るべく、前述のV-DEARを用いて、仮想的にフェロモンを散布するマルチロボットシステムによる実験を行い、その急激な流量増加が実際のロボット交通流システムでもロバストに発現することを確認した。
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