研究概要 |
我々人間は数百万・数千万種類もの色を識別できるものの、人間には見ることのできない情報も多く存在する。それは、連続的に変化するスペクトル情報をわずか3つのセンサーで知覚する情報へと変換していることや、いわゆる可視領域の波長範囲しか知覚できないことからも容易に想像がつく。そこで我々は、可視から近赤外の波長領域(およそ400nm〜1000nm)のスペクトル情報を2次元で計測することのできる(つまり、各画素がスペクトル情報を持つ)、マルチスペクトルイメージングシステムを構築した。これは、レンズと高感度モノクロCCDカメラとの間にAOTF (Acousto-Optic Tunable Filter,任意波長のみを透過させることのできるフィルタ)を入れることによって構築した。しかし、このシステムで得られる情報は、通常のRGB3バンドの画像と比べ、数十・数百倍ものデータ量を持つため、必要な情報のみを抽出する情報処理が必須となる。そこで本研究では、スペクトル情報が似たもの同士は似た色で、異なるもの同士は異なる色で彩色する可視化手法を考案した。これは、ベクトル量子化、多次元尺度法、主成分分析などの多変量解析によりスペクトルの類似性を抽出した後、CIELABの直交座標色空間からRGB値に変換することで実現した。この方法により、大豆内部の目に見えない葉脈上の構造の可視化に成功し、また、その3次元構造を世界で初めて可視化した。次に、近赤外分光法を用いて、ある特定の成分分布を可視化する方法を提案した。これまで近赤外分光を用いたイメージングに関する研究に関しては、スペクトルと成分値の関係を求める方法として、ある複数の波長データのみを用いて回帰する重回帰分析が用いられてきた。しかし、近赤外分光法が、赤外領域における分子の基準振動の倍音や結合音に基づく弱くかつ複雑な吸収を利用することを考えれば、全波長データを説明変数として用いる回帰分析を用いた方が適切であると考えられる。そのため本研究では、イメージングの分野ではまだ取り入れられていないノンパラメトリック回帰分析やPLS回帰分析などの高度な回帰分析を用いることで、従来法以上の精度で成分値を推定し、成分分布を可視化する方法を提案した。ターゲットとしては地域特産品のメロンを選んだ。そして提案法を用いてメロン断面の糖度分布を可視化した。その結果、従来法を用いて可視化した結果よりも精度も良く、良好な可視化結果が得られた。
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