研究概要 |
本課題に関する研究の成果として,本年度は以下の二つの結果を得た. 第一に離散化によって受動性が失われる場合を調べ,数値解析の結果との比較を行なった.具体的には,制御対象が厳密にプロパーな線形システムであるならば,もともとの制御対象が受動的であってもそれを離散化して得られるシステムは必ず受動性を持たないものになってしまうことを証明した.これは理想サンプラと零次ホールドを使った単純な離散化では,入力と出力の間に1サンプル周期の時間遅れが生じてしまい,それが障害となって受動性を失うのだと理解できる.数値解析の場合には陰的解法を使うことによって時間遅れを解消し,同種の問題を回避している.しかし制御理論の場合には実時間性が重視されるため同じ方法を使うのは難しい. 第二に,以上の知見をもとにして受動性を回復する方法を提案した.制御対象が線形システムで零次ホールドを使う場合には,与えられた入力に対して方程式を陽に解くことにより,1サンプル周期だけ未来の出力を求めることができる.これを使って仮想的な出力を定義することにより受動性を保存した離散化が可能であり,さらにそれに基づいて安定化することも可能であることを示した.しかしながらこの方法は制御対象が非線形システムである場合,一般に方程式を陽に解くことができないために拡張が難しく,さらなる研究が必要である. これに関連してさらに,数値的手法と確率的手法とを組み合わせてロバストに受動化および安定化を行なう方法について考察した.
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