本研究の主目的は数値最適化手法に基づく制御系の設計および解析において重要な役割を果たしている行列不等式、中でも伸張型行列不等式に関する基礎理論を確立することにある。本年度の初期の研究においては標準的な行列不等式から伸張型行列不等式を導くための代数的手法について検討を重ね、伸張型行列不等式の導出に関する基礎定理を導いた。この成果をアメリカ制御学会(裏面11項第3番目に記載)で発表した。次にこの基礎定理に基づき、伸張型行列不等式を用いたゲインスケジューリング制御系の設計について研究を行った。航空機の制御を主たる目的として研究が進められているゲインスケジューリング制御系設計においては、従来より行列不等式を用いた設計手法の有用性が認識されているが、標準的な行列不等式を直接的に用いた場合には解決できない問題も多い。本研究において確立された基礎定理に基づいて伸張型行列不等式を導くことで、従来手法では制御系の設計が困難であるとされてきた制御対象に対しても容易にゲインスケジューリングコントローラを設計できることが明らかになった(この成果を裏面11項第1番目に記載の論文で発表した)。また伸張型行列不等式に基づく制御系設計理論は電力系統などの大規模システムを制御するときに問題となる分散制御問題を扱う上でも有用であることが分かりつつあり、その部分的な成果を決定と制御に関する会議(裏面11項第4番目に記載)で発表した。また伸張型行列不等式に関する代数的手法に関して研究を進める過程でモデル低次元化問題に対しても新たな知見が得られたため、この成果を裏面11項第2番目に記載の論文で発表した。
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