研究概要 |
非線形モデル予測制御(非線形Receding Horizon制御)とは,各時刻で有限時間未来までの最適制御問題を解き,得られた最適制御の初期値のみをその時刻における実際の制御入力として用いるフィードバック制御手法である.非線形系を対象とする場合,計算量の大きい非線形最適制御問題を実時間で解かなければならず,従来は実装が困難だと考えられていた.しかし,代表者が効率的なアルゴリズムを近年提案し,いくつかの適用例によって有効性を示した.ただし,より複雑な問題に適用する際には数値計算が発散してしまう場合もあった. そこで,本研究では,非線形モデル予測制御の実時間アルゴリズムに対して前処理手法を提案し,数値的安定性の向上に成功した.その結果,拘束条件や可変ダイナミクスを含み従来のアルゴリズムでは安定な数値計算が行えなかった複雑な問題であっても,ミリ秒単位のサンプリング周期でハードウェア実装が可能となった. 前処理手法とは,解くべき問題に何らかの変換を施して,数値計算により適した等価な問題へと変形する手法である.すでに数多くの前処理手法が提案されているが,非線形モデル予測制御問題にはそのままの形で適用できない.そこで,非線形モデル予測制御に適した前処理手法を新たに考案した.いくつかのバリエーションを検討した結果,従来のアルゴリズムとほとんど変わらない計算量で大幅に精度を向上できた. アルゴリズム検証のための制御対象として,ひもでつながれたホバークラフトの曳航制御を取り上げた.母船のホバークラフトに被曳航物体の小型ホバークラフトをひもで接続した実験装置を構築した.ひもが張ったり弛んだりすることによって制御対象のダイナミクスが変化するため,このシステムのモデル予測制御は数値的悪条件に陥りやすいが,前処理手法を取り入れた新たなアルゴリズムによって従来不可能だった計算が実時間で実行可能になった.
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