研究概要 |
本研究では,低周波複合音に対する人間の知覚特性を解明するために,被験者を用いた官能実験を中心に研究を進めている.研究期間2年間の1年目である今年度は,研究計画に記載のとおり,年度前半に実験設備の構築,後半に低周波複合音に対する知覚に関する予備的な実験を実施した.そのうち実験においては,低周波純音に対する知覚閾値に及ぼす暗騒音環境の影響を検討した.知覚閾値測定の対象とした低周波純音の周波数は20,30,40,50Hzの4種類であり,それぞれに対し,60Hzから100Hzの低周波音域の音圧レベルが異なる3種類の暗騒音環境を設定した.暗騒音環境としては,音を発生させない状態の実験室での暗騒音環境,及びその状態から前述の周波数域の音圧レベルを25dB及び35dB増加させたものとした.実験は,5名の被験者に対して実施した.実験結果より,暗騒音の音圧レベルの増加により知覚閾値が上昇することが確認された.例えば,50Hzに関しては,暗騒音の音圧レベルが35dB増加することにより,20dB程度の知覚閾値の上昇が認められた.また,知覚閾値測定の対象とする純音の周波数が低いほど,暗騒音の音圧レベルの変化による知覚閾値の変化は少なくなる傾向が見られた.このことは,低周波音域における臨界帯域の存在を示すものであり,次年度においてさらなる実験を行い,この臨界帯域の定量的な評価を目指すとともに,低周波複合音の知覚モデルの構築を行うこととしている.
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