研究概要 |
本年度は,高水敷植物の成長および栄養塩吸収に関して現地観測,室内実験,数値計算を実施した.得られた成果はそれぞれ以下に示すとおりである. 1、高水敷植生の成長に関する現地観測:東京都青梅市の多摩川河口部より59km地点付近の高水敷上において,2003年4月〜同年8月の期間中のツルヨシの成長量,地下水位,地下水水質の現地調査を実施した.観測の結果,観測対象地の高水敷上においては,地下水位と河川水位,地下水水質と河川水質に有意な違いは見られなかった.また,ツルヨシの成長は比高と密接に関連しており,比高の小さな高水敷水際付近の植生は,他の地点と比較して成長量が小さいことが明らかになった. 2、ツルヨシによる栄養塩吸収に関する水耕栽培実験:観測対象地に生育するツルヨシを採取し,実験室において水耕栽培を実施した.水耕栽培では,光合成に伴う蒸発散量,栄養塩吸収量,根の呼吸量の計測を行った.実験の結果,ツルヨシの栄養塩吸収量は根の呼吸量と関連しており,呼吸量が大きいほど栄養塩吸収量が大きくなることが明らかになった.また,根の呼吸量は周辺土壌の水分量の影響をうけ,根が冠水していると呼吸量が小さくなり,その結果,栄養塩吸収量が小さくなることが示された.この結果は,現地観測における比高の小さな地点でツルヨシの成長量が小さくなるという結果を支持するものであり,高水敷ツルヨシの成長量を予測するためには,地下水位による地下茎の呼吸量,栄養塩吸収量の変化を適切に把握する必要があることを示すものである. 3、ツルヨシ成長の数値計算モデルの開発:上記の観測,実験結果に基づいて,根の呼吸量,栄養塩吸収量を考慮に入れたツルヨシの成長モデルの開発を行っている.現時点では,根の呼吸と栄養塩吸収の関係を定式化しモデルに組み込んだ段階であり,今後,成長モデルへと拡張していく予定である.
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