研究概要 |
歪みのある空間経済モデルを構築し,1)公共施設整備便益計測手法の提案と2)空間経済における費用便益指標と補償テストの関連性について分析を行った. 1)については,2種類の便益計測式を導出した.一つは一点経済で導出されたHarberger(1971)と同様のものである.二つめは,空間経済では効用が空間的に均等化する性質を利用して導いており,Pines and Weiss(1976)を経済に歪みが存在するケースに拡張したものである.いずれの便益計測式にも環境質の外部性の項が含まれる.そこで,環境質の支払い意思額の推計方法に関して,地価を用いる便益計測手法を開発した.この方法は,従来のヘドニックアプローチとは異なり,small-open等の仮定が必要ない.また,用いるデータもヘドニックアプローチに比べて少ないため,多重共線性を避けることが可能といった利点を有している. 2)については,空間経済においてアレー余剰と弱カルドア補償原理の同値性は成立するかについて検討を行った.結論として,歪みの有無に関わらず,空間経済ではアレー余剰の定義が複数あり,定義によってはアレー余剰と補償原理(弱カルドア原理)との同値性は満たされないことを示した.ただし,歪みのある空間経済を考慮しても,アレー余剰を経済で最大余る合成財と定義した場合,同値性を持つ.しかし,歪んだ経済で最大余る合成財を定義することは,歪みを補正した場合の合成財を計量しているにすぎず,現実の歪んだ経済を評価していることにはならない.そこで歪んだ経済においても利用可能なアレー余剰を本研究で新たに定義した.新たな定義によるアレー余剰は補償原理と,完全競争の場合は必要十分条件を持ち,歪みのある経済の場合でも,十分性を持つなど,望ましい性質を持っている.
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