個人や法人、そして国家にとって最も基本的な財産の一つである不動産に関する法制度や産業の構造は、それぞれの国の地理的・歴史的な背景から極めて多様である。不動産に関するリスク評価や市場の効率性等に関する議論は、その性格上、株式や債権等の金融資産に比べてはるかに多様な要因を考慮しなければならない。もし不動産投資プロジェクトにおけるリスク評価を市場から得られるごく限られたデータのみで行おうとすれば、その背後に潜む、これら法制度や産業としての特徴に内在する様々なリスクを見逃してしまうこととなり、プロジェクト評価の妥当性を欠くものとなる。本研究は、不動産投資プロジェクトにおけるリスク評価という観点から、各国の不動産業の特徴を整理して比較することにより、法制度や産業構造等に内在するリスクを明らかにすることを目的としている。 本研究の初年度に当たる今年度は、各国の不動産業の特徴に関して、文献レビューや鑑定士・surveyor等各国の専門家へのヒアリング通じ、以下の5つの点を中心とした整理に着手した。(1)不動産の取引・管理等に関わる法制度とその歴史的経緯・現状(2)不動産業に関する統計データ整備状況とその活用実態(3)不動産業と密接に関わる他の産業との関係(4)不動産業における資格制度(5)不動産鑑定評価の方法 次に、上記の(3)に関するリスクを定量的に比較する方法の一つとして、不動産を対象にしたリアル・オプション評価モデルの一つであるCapozza and Li(2002)を用いて、不動産投資の利子率に関する弾力性についての実証的な比較分析の可能性について検討を行った。具体的には、我が国と英国への同モデルの適用を試み、Capozza and Li(2002)による米国における実証分析の結果との比較を行った。
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