研究概要 |
1)事業計画主体が実施する需要予測や費用対効果分析において,事業正当化を目的とした分析結果が算出される危険性を少なくする制度についての理論分析を行った.ベイズ意思決定理論と契約の経済理論におけるプリンシパル・エージェント・モデルを組み合わせた理論モデルを定式化し,解析的な分析を通じて最適制度を導出した.分析結果に基づき,具体的な制度として,リスク負担制度,トーナメント制度,繰り返し取引制度,再交渉制度,監査制度の5つを提案した. 2)リスク負担制度に関する分析結果に意味解釈を加え,交通需要予測やプロジェクト評価における事前評価と事後評価の関係について考察し,学界などで議論が錯綜している事後評価の役割と方法論を明らかにした.さらに,過去の公共事業の需要予測や費用対効果分析の事例として,国土交通省の交通需要推計における免許保有率推計問題を題材として取り上げ,リスク負担制度の有効性についての実証分析を行った.実証分析の結果から,リスク負担制度にマニピュレーションを抑止するうえで効果があるものの,交通需要予測やプロジェクト評価に携わる分析者に過大なリスクを負わせる危険性が示された. 3)監査制度に関する分析結果に意味解釈を加え,社会資本整備についての専門的知識を有する第三者機関(具体的には,NPOなどの非営利組織)が果たすべき役割や専門的知識を有さないものの,大量の情報を低コストで発信する組織(具体的には,テレビ,新聞などのマスコミ)が果たすべき役割について考察した.分析結果から,情報収拾に携わる費用,事業実施主体からの独立性,保有する知識の専門性の3つに依存して最適な制度が変化する可能性が示された.
|