研究概要 |
本年度上半期においては,まず企業の事業所(業務拠点)配置を扱った経済学・経済地理学・交通経済学の既往研究から,特に集積の経済性や他の地域への交通アクセス条件が事業所配置に及ぼす影響に着目して論点を整理した.さらに近年の事業所の統廃合を含む業務ネットワークの再編の傾向についてレビューを行った.その結果,大企業ではIT技術を前提とした広域的な業務ネットワークの形成が進んでいる傾向が見られた.さらに,事業所配置のモデル化に際しては,ORの分野で研究されている最適施設配置モデルの考え方に基づいた配置モデルを用いることとした.その準備のため,各都市の集積の経済性や事業所の規模・機能の違いを考慮した施設配置モデルの研究事例のレビューを行った.さらに本研究テーマの基となる支社配置モデルに関する研究成果をとりまとめて論文を執筆し,日本都市計画学会,およびEuropean Regional Science学会に投稿して発表した. 本年度下半期においては,事業所ネットワークの逆推定手法の開発を行った.最適支社配置モデルは,本社-支社間の交流量と支社-顧客間の交流量の比によって支社機能の違いを表現し,集積の経済性を反映した各地域への支社配置コストと地域間の交流コストの和の最小化問題として定式化した.最適支社配置モデルから得られる業務ネットワークパターンの中から,「通信と交通の分担を考慮した地域間情報交流モデル」から求まる情報交流量と,各地域の事業所立地データを適切に説明できるパターンの組み合わせを求めるという手順で,業務ネットワークを推定する方法の開発を行った.さらに,本研究で提案した地域間の管轄データに基づいて実証的に業務ネットワークを抽出する手順を逆問題と捉えて,その数理的な性質について検討を行った.
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