本研究は、鋼構造建築物が大地震により被害を受けた後も、床スラブがねじりモーメントを負担することによって、構造部材の連鎖的破壊、および建築物全体の崩壊を防ぐことができる可能性についての研究である。前年度は、床スラブと直交梁のねじり伝達数理モデルの作成、および有限要素解析による床スラブ-頭つきスタッド-直交梁の応力伝達状況を確認し、実験計画を策定した。本年度は、策定した実験計画に基づき、RCスラブ-頭つきスタッド-直交梁の縮小試験体を製作しねじり試験を行った。通常の構造設計においては、RCスラブからの曲げモーメントは直交梁には伝達しないものとして考えられているが、この試験の結果、実際にはモーメントを伝達する能力があることが明らかとなった。本試験体の最終破壊モードはコンクリート床スラブの曲げ破壊であり、スタッド部分の過大な変形および損傷を認めることなく、十分な塑性回転変形能力を示した。この結果から、コンクリート床スラブを耐震性を補填する部材として設計できる可能性があるものと考えられる。 一方、柱梁骨組の梁端破壊後の動的挙動については前年度から継続して解析による検討を行った。骨組部材の連鎖破壊の要因としては、a)破壊瞬間の応力再分配、b)破壊直後の変形増大、c)その後の長周期化による応答性状変化の3つが考えられるが、特にb)の変形増大については、復元力低下量と直接的な関係があることがわかった。実験で明らかになったように、床スラブは剛性には乏しいが、大変形後もある程度の復元力を保持できることから、これを利用して部材破壊時の復元力低下を緩和し、その後の変形を抑制できる可能性がある。
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