第一に、昨年度に引き続きコケ緑化パネルの改良についての検討を行い、生育状況の調査を行った。具体的には、基盤材の異なる複数のパネルを長期屋外に設置し、色や生育状況についての観察を行った。また、コケを基盤材に固定する際の耐久性に問題があった事から、コケ種子をモルタルに混ぜ、スプレーガンで対象壁面に吹き付ける、いわゆる吹き付け工法による施工後のコケ補修の可能性について検討を行った。しかし、酸性のモルタルの影響によりコケが脱色する、という問題が生じたため、この施工方法については更に検討が必要と考えられる。 第二に、2つの壁面緑化システム及び昨年度開発したコケによる軽量緑化パネルを対象として表面熱収支及び各部温度に関する観測を行った。測定項目は、気温、湿度、風速、壁面へ入射する日射量、長波長放射量、植物の葉表面温度、葉群層空気温度、土中温度などである。尚、吸湿性の無い材料で壁面緑化システムの表面形状を模擬したSAT計による対流熱伝達率の測定値から、熱収支成分で直接測定が困難な顕熱フラックスを推定し、熱収支残差から潜熱フラックスを同定している。また、緑化システムの縮小試験体を作成し、直接試験対の重量変化を測定する事によりバルクでの蒸発量を推定する方法により、別途測定精度の検定も行っている。観測から壁面緑化の熱特性に関して次の知見が得られた。 1)入射角60度以下では日射反射率の入射角依存性は小さく、その平均値は0.134〜0.146となった。 2)葉群層の熱コンダクタンスは概ね風速と正の相関が見られた。 3)蒸発比は測定期間を通して0.1〜0.2の範囲内で、季節変化、日変化は小さい。また、日射量と蒸発比の間に相関は見られない。 以上の結果から、壁面緑化の熱収支を明らかにした。これにより、都市気候モデルに組み込むための壁面緑化モデルの基礎データが収集された。
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