本研究の目的は、第1に音響的見地から見た森林の新たな価値創造、第2に屋外における音響空間創出のための残響理論構築である。 平成15年度は以下の項目を実施した。 1.森林音響の方向情報測定システムの構築 森林空間の音環境を解析するため、森林音響測定システムを構築した。具体的には、TSP(Time Stretched Pulse)信号を用いた多チャンネルインパルス応答測定システムとした。使用するマイクに無指向性もしくは指向性マイクを選択することによって、無指向性インパルス応答および方向別インパルス応答が測定可能である。そして、チャンネル間の同期精度を実験により調べた結果、十分な精度で同期された方向別インパルス応答が測定可能であることが確認された。その結果、方向別のエコータイムパターンおよび残響解析が可能となった。 2.第1回森林の音響測定 伊豆天城高原の林野庁森林計画区にて音響調査を実施した。測定項目はインパルス応答、方向別インパルス応答、暗騒音、距離減衰である。そして、インパルス応答から残響時間周波数特性、エコータイムパターンを解析した。その結果以下のことが明らかになった。 1)開けた空間である森林空間においても、閉空間であるコンサートホールの残響時間に近い2秒〜3秒の残響時間が得られる。2)方向別インパルス応答の解析から、その響きは主に木の幹の反射によって生じている。3)残響減衰カーブが折れ曲がっている。4)今回調査対象とした森林空間では特定の周波数帯域(500Hzから2kHz)の残響時間だけが特に長い。この傾向は木の太さによって異なる可能性がある。5)距離減衰は周波数帯域によっては超過減衰が著しい。6)直接音到達から第一反射音が到達するまでの時間(初期遅れ時間)はきわめて短いが、レベルの大きい明確な初期反射音は認められない。7)反射音の密度は初期応答から非常に大きい。
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