本研究は、諸外国において、地方政府と私的セクターが連携しながら進める様々なまちづくり制度を分析し、私的セクターが実施する事業を公共政策の方向性に沿って実施させるためにどのようなインセンティブ又はディスインセンティブが導入されているかを検証するものである。それによって、これまで集権的な意思決定と応能的な財源調達を特徴としてきた日本のまちづくり事業制度に、意思決定と財源調達の面で地域が自立的な計画システムの概念を提示することを目的としている。 研究代表者は、平成15年度、米国におけるスマートグロースのムーブメントを検証し、都市圏レベルの成長管理の仕組みの中で、民間による都市再開発がどのように誘導されているかを分析してきた他、同様の仕組みをヨーロッパ諸国において検索し、2004年2〜3月には、近年、都市計画における地方分権が進んでいるイタリアにおいて、広域レベルにおける計画づくりと民間の投資誘導の手法がどのように進められているかを調査した。 上記の成果は、その一部を、研究代表者の博士論文(2003年10月学位授与)の中において発表すると共に、3本の論文として雑誌・共著の中で公表した。博士論文においては、主に、第3部「『負担者受益』型まちづくりの新たな展開」において、本研究実績を発表している。ここでは、原則として負担者が事業を主導し、地区レベルで事業が運営されるまちづくり事業に、いかにして広域的な都市計画の観点及び近隣住民の視点も取り入れるかを、米国における先進的な取組みの分析を通じて検討している。本論文の結論では、米国において民間が主導して行う様々なタイプのまちづくり事業制度に見られる「負担」・「受益」及び地域にもたらす便益の内容、制度の中での政府と私人の関係を整理し、米国においては、「負担」を行う者に対し、自発的な負担を促すために、様々な利害との調整をはかりながら、地方政府がインセンティブを創出する仕組みと位置づけ、負担を行った者が事業の意思決定にも関与する点が、大きな特徴であるとした。
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