加齢に伴う身体機能低下により、高齢者は日常生活において様々な困難に直面することも多く、事故の発生率も極めて高い。加齢による黄変化問題も、非常に重要な課題の1つである。特に、実際の建築空間・都市空間においては、視対象を同定すること、すなわち、視対象を探索する過程における色彩識別能力をモデル化することが極めて重要な意味を持つ。にもかかわらず、この分野は未だ研究例はほとんどないのが現状である。本研究の目的は、実際に被験者を用いて、視対象が予め示されていないときに視対象を探索する場合の色彩識別能力を心理物理的にモデル化することである。 2年度目の今年度は、20代から70代まで、世代の異なる延べ92名の被験者を対象に、(1)VSGによる探索能力評価実験、(2)実際の都市景観画像を用いた探索能力評価実験、(3)探索における色彩感情に関する実験を行った。(1)は初年度も行っているが、違いは色彩の3属性(色相、明度、彩度)のうち、2属性を固定し、残る1属性の影響を詳細に調査した点である。結果として、色相差や彩度差に比べ、明度差の識別がよいこと、黄変化に伴い心理的色空間の歪みが生じ、歪んだ場合には補色関係にあるY-PBの色相でも識別が低下することを明らかにした。また、(2)については、小規模できはあるが、実際に景観を用いた実験を行い、(1)との対応を検討した。また、(3)については、心理量として、「識別のしやすさ」と「色彩の組み合わせとしての好ましさ」を調査し、識別しやすいが好まれない組み合わせがあるなどの結果を得た。
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