景観保存を目的に選定された重要伝統的建造物群保存地区(以下、伝建地区)は過疎化、高齢化、産業の衰退等の問題により、多くの空き家を抱えている。しかし、空き家の実態、空き家所有者の実態は充分に把握されていない。空き家化のメカニズム、空き家所有者の保存意識や管理実態を明らかにし、空き家活用の可能性を探るとともに、空き家の外観が町並みに与える影響を探ることを本研究の目的とする。そこで、広島県竹原町並み保存地区(以下、竹原地区)を事例として取り上げる。 本年度研究調査は、空き家所有者へのヒアリングおよびアンケートを行い、空き家の外観調査については破損箇所の点検を地区内の全建物にわたって行った。 竹原地区における空き家の所有者・後継者は、ともに、伝建地区から比較的に近いところに住んでいる人が67%と多く、そのほとんどの人が持ち家を所有している。近くに住んでいる人の方が遠くに住んでいる人より、よく空き家を訪れているが、遠い所に住んでいる人の方がよく管理をしていると自己評価していることから、管理の実態と自己評価は必ずしも一致しないといえる。地区住民全体と空き家の所有者・後継者の地区内への思いを比較すると、地区住民は、日々身近なこととして町並み保存に関わっているからか、誇りに思っている(32%)と迷惑に思っている(32%)の両極に分かれているのに対し、空き家の所有者等は、伝建地区から離れているからか、中間的な「仕方がない」が39%と多い。 空き家の外観維持管理状況は意外に悪くはなく、実際は空き家より空き家以外のほうが破損項目数は少ないが破損程度の悪いものが多いことがわかり、必ずしも空き家であることが建物の外観維持の悪さに結びついていないことがわかった。 今後は、空き家を活用するために、空き家所有者と地元住民とを交えた話し合いの場を設け、新たな空き家活用を提案していく必要がある。
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