16世紀に書かれた建築理論書および音楽理論書において、建築と音楽における大きさを規定する尺度としてモドゥルスおよびタクトゥスという基準単位が存在した。これらの性質および用法に関し比較考察した結果、以下のような類似性が見いだされた。 1.建築におけるモドゥルスの大きさは柱径や柱礎の大きさを基準として定められた。一方、音楽においてはセミブレヴィスなど具体的な音価の長さを基準としてタクトゥスが定められている。すなわち、モドゥルスもタクトゥスも、共に、具体的な部分の大きさから導き出された大きさ単位である。 2.同時期の多くの理論書においては、すべての部分の大きさがモドゥルスあるいはタクトゥスによって定められていたのではない。逆に、モドゥルスやタクトゥスが用いられない他の部分は、それぞれの部分の周辺あるいは構成要素などによる相互の比例関係によって定められていた。 これに対し、ヴィニョーラの建築理論書とディルータの音楽理論書においては、モドゥルスやタクトゥスが各部分の大きさを一義的に決定していた。すなわち、ヴィニョーラにおいて各部分の大きさは、相互の比例関係によって決定されるのではなく、モドゥルスを媒介として示される。また、そのモドゥルスは柱高という具体的な大きさから導き出されたものであり、さらに柱径とも一致しているものの、その応用範囲は柱高あるいは柱径といった部材の内部や隣接する部材だけに限定されることなく、各オーダーにおいて全般的にこの尺度が用いられている。同様に、ディルータでもタクトゥスの大きさはセミブレヴィスと一致していたが、マクシマからビスクロマまでの9種のすべての音価はこのタクトゥスによって一義的に大きさが示されていた。 なお、以上に付き論文投稿準備中である。
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