16世紀に書かれた建築理論書および音楽理論書において、建築と音楽における大きさを規定する尺度としてモドゥルスおよびタクトゥスという基準単位が存在した。前年度は、これらの性質および用法に関し比較考察し、それらの類似性を見いだした。今年度は、これらの単位がいかに形成されてきたかという過程を考察するために、これらの単位を用いずに寸法を規定する方法について、建築理論書および音楽理論書を比較しつつ考察を進めた。その結果、以下のようなことが見いだされた。 建築理論書においても音楽理論書においても、単位を用いていない記述において、「Aの量に対し、その量の1/aを増加(または減少)させたものをBの量とする」という形式の表現が見られた。このように、単位を用いない場合の寸法規定には、除法と加法、あるいは除法と減法を組み合わせたものが存在していた。 E.パノフスキーは「様式史の反映としての人体比例理論史」において、人体比例論における単位の有無による寸法規定を除法から乗法として示したが、建築と音楽においては単位有無による寸法規定の変化とは、単に除法から乗法へという変化にはとどまらないと言える。 また、ここで見られる除法と加法、あるいは除法と減法が組み合わせられた形式には、古代ギリシア以来の比例論との類似性が指摘できる。
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