本研究では、実際に日本の明治・大正時代に建設された煉瓦造建築物に使用されている煉瓦単体および組積体の圧縮挙動に関する実験を行い、当時の材料に関する力学的性質の解明を行った。特に中国地方・九州地方・東海地方などに実際に存在する、またはかつて存在していた煉瓦造建築物に使用されている煉瓦を採取し、圧縮挙動を調べた結果、製造された年代および成形方法と圧縮挙動との間に相関関係が見られることが明らかになった。 また煉瓦単体のみならず目地モルタルにも着目し、歴史的な煉瓦造建築物によく採用されていた石灰セメントモルタルによって作成した試験体の、経年的な圧縮性状の変化を解明することを試みた。経年変化を短時間で観察するために5ヶ月間の促進炭酸化を行い、1ヶ月毎の圧縮試験を行った。合わせて同様の目地モルタルで作製した煉瓦組積体についても促進炭酸化を行った。その結果、4週水中養生直後の圧縮強度(初期強度とする)と比較し1ヶ月炭酸化した試験体は約4倍の強度を示し、2ヶ月・3ヶ月・4ヶ月・5ヶ月炭酸化後の強度の向上は微々たるものであることが明らかになった。このような目地モルタルの圧縮強度の向上は煉瓦組積体にも影響を与えていることが推察され、実際に煉瓦組積体についても1ヶ月炭酸化促進後の圧縮強度は初期強度と比較して15倍程度となり、その後の強度の向上はあまり見られなかった。以上のことから実際の煉瓦造建築物で考えた場合目地モルタル性の圧縮強度は施工直後から数年間でやや向上し、その後は殆ど変化しないということが推察される。しかしこの数年間の間にどのような性状の変化が起こって強度が向上しているかについてはさらに詳細に解明する必要があると考えられる。
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