本研究は、鉄骨造の技術がいち早く導入された旧海軍の鉄骨造建築の変遷を明らかにすることを目的としている。平成17年度は、旧海軍の中心地であった旧横須賀海軍を対象として、防衛研究所戦史資料室所蔵の建築図面等の関連資料をリスト化した。リスト化に際しては、データの客観性と他の構造形式との比較検討に資するために、全ての構造形式を対象とした。平成16年度には、悉皆調査を実施して台帳を整備したが、鉄筋コンクリート造のような外観を持つ鉄骨構造の建築が複数確認されている。これを防衛研究所戦史資料室での調査リストと照合すると、旧横須賀海軍では、大正期以降に鉄骨鉄筋コンクリート造の建築が普及し始めていた事が確認でき、更に、工場建築に限らず庁舎建築においても鉄骨を構造材として採用するものが普及し続けているという特徴が判明した。即ち、旧横須賀海軍では、鉄骨を構造材として信頼し続けていたと言え、庁舎建築の耐火対策としては、鉄骨鉄筋コンクリート造の採用やモルタルで厚く耐火被覆する構法で対応していたという傾向が窺えた。また、リストからは、第2次世界大戦中には、木造の建築の比率が著しく上昇したことも窺えたが、鉄骨造やコンクリート造の建造物も建設され続けていた事も確認出来た。従って、旧海軍施設は、明治期から第2次世界大戦末期まで、同一組織によって建設された鉄骨造建築を編年的に研究できる施設といえる。リストでは、建築に加えて、土木施設やガントリークレーンなどの大型の鉄骨造の構造物もリスト化した。ここで、明治44年に竣工した旧横須賀海軍工廠のガントリークレーンについて、リストと現地での痕跡調査を照合の結果、その基礎らしきものが確認された。建築部材の断面寸法の大きさについては、建物の用途や桁上のクレーンの重量等によっても変わるためか、年代を経る毎に合理的に部材が細くなると言った傾向を窺い知るには至っていない。
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