本年度は、韓国における歴史的建造物保存修復と国内におけるそれとの方法的比較を中心に研究を実施した。修復方法の基本的な思想を把握する目的で、韓国における歴史的建造物の修復現場を実地に見学し(法住寺大雄宝殿、江陵客舎門、帰信寺大寂光殿、弥勒寺址石塔の4棟)、各修復現場担当者へのインタビュー並びにディスカッションをおこなった他、韓国文化財庁、文化財研究所における建造物修復担当官及び研究者とのディスカッション、歴史的建造物修復に関する資料収集と分析をおこなった。その結果、以下のような修復の特徴が認められた。 (1)韓国では、破損部材の新材への更新が日本に比して多く見られる。 (2)構造補強にはなるべく木材を用いる。 (3)伝統技法を習得した大工技術への信用ゆえに、伝統的修理技法が多用される。 (4)部材再利用のための合成樹脂による部材修復の多用。 以上の特徴を、日本における建造物修復の考え方と比較して考えると、次の3点のような考え方を読み取ることが可能なように思われる。 a 木造建造物修復の根本は、伝統材料としての木材を使用しての構造健全化にある。鉄等の非伝統材料の使用をなるべく避ける。 b 古材はなるべく尊重するが、構造的に重要な軸部の材に重点を置く。 c 現代における大工技術と、歴史的建造物の建設時における技術との距離を近いものとみなす。 すなわち、木造建造物の建設技術に、時間を超えた一貫性をある範囲で認め、木材の徹底使用と伝統技術による建造物保存を進めることで建造物とそれを支える技術を一体として継承していこうとする認識が根底に存するように考えられる。 今後は、この仮説的な知見を踏まえて、修復理論の形成過程を追うと共に、日本、中国、韓国における修復に対する考え方の共通点と差異を考察していくつもりである。
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