数ギガパスカルの超高圧水素下においては金属中に多量の水素誘起空孔が生成し、相互拡散が著しく促進されることが見出されている。固体中の原子の拡散は静水圧下においては抑制されるのが一般的であるため、このような拡散の促進は全く新しい現象である。そこで本研究では、通常の雰囲気下において拡散が空孔機構および解離機構をとる系に超高圧水素を適用し、その拡散挙動を解明することを目的とした。空孔機構をとるとして知られているγ-FeおよびAuを対象とした。超高圧水素下においてγ-Fe中の水素固溶量はAu中のものより2桁大きい。5GPaの水素圧下におけるγ-Fe中のAuの拡散係数は0.1MPaのアルゴン圧下におけるものより2〜3倍大きく、その拡散は促進された。5GPaの水素圧下における拡散の活性化エネルギーは0.1MPaのアルゴン圧下における値より20kJ/mol大きく、一方前指数項は0.1MPaのアルゴン圧下のものより17倍大きいことがわかった。このことから、超高圧水素下におけるγ-Fe中のAuの拡散の促進は大きな活性化エントロピーに起因することがわかった。一方、水素固溶量が小さいAu中のFeの拡散の促進はγ-Fe中ほど大きくなく、拡散の活性化エントロピーは超高圧水素に影響されないことがわかった。一方、解離機構をとるとして知られているNb中のCoの拡散に超高圧水素を適応したところ、5GPaの水素圧下において約1桁促進した。
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