今年度は以下の3項目を中心に行った。 1)Snに他元素を微量添加したSn合金の作成、評価とその相転移の観測 2)X線回折によるSn単結晶の構造解析、及びそれによる熱振動効果の解析 3)中性子線回折によるSnの異方性散漫散乱、α-β相転移過程における構造変化の解析 1)ついては昨年度Ge添加によりSnの構造相転移の促進、転移に伴う試料崩壊の抑制効果などが確認されたことをふまえ、新たにCu、Ag、Bi、Pbを添加した共晶試料を作成し、添加による転移への影響を調べた。その結果、これらの元素については顕著な相転移の促進効果がみられないことが明らかとなった。また、その抵抗、融点、硬度などの試料評価を行い、純粋Sn、Sn-Ge合金との比較を行った。現在はこれらの共晶との比較の目的で、固溶相を形成するSn-Ga合金について同様の研究を進めている。 2)については純粋Sn球状微小単結晶を用いたX線構造解析を行った。その結果、温度因子はc軸方向に大きくまたその値が金属や同族元素に比べて非常に大きいことが明らかとなった。さらにその電子密度分布の歪みから、4次の非調和熱振動の可能性が示唆された。これらの結果をふまえ、熱振動効果と相転移との関連性を調べるため、さらに温度変化をさせた構造解析を進める予定である。 3)については高温相で観測されるSnの異方的散漫散乱の詳細な3次元的分布とその温度変化を調べた。その強度分布の解析の結果、ホタル石構造から立方閃亜鉛構造への構造相転移を起こすYSZなどの超イオン伝導体からの散漫散乱と非常に類似した特徴が確認された。単一原子化した立方閃亜鉛構造がSnの低温相であるダイヤモンド構造となることから、両者の散漫散乱には構造上の共通のメカニズムが関係していると考えている。昨年度までに行った2次の熱振動効果モデルだけでは説明されない複雑な強度分布を理解するために、この観点からの散漫散乱のモデルを構築中である。また相転移過程における回折パターンの構造解析から、構造パラメータの相転移に伴う時間変化を解析しており、この結果から相転移メカニズムに関する構造学的情報が得られる考えている。
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