研究概要 |
新機能性材料の創製を目指して,希土類金属としてY,Laを,磁性金属としてFeを組み合わせた[磁性金属/希土類金属]積層膜を作製し,(1)その構造および磁性・伝導性の水素注入による変化と,(2)水素注入による層間交換結合の温度依存性を検討した結果,以下の知見を得た. (1)構造および磁性・伝導性の水素注入による変化 いずれの積層膜においても,水素注入により界面が急峻化し,その伝導性が金属伝導から半導体伝導へ遷移する.しかしながら,Fe/YとFe/La積層膜とでは,水素注入による磁性の変化,すなわち水素注入前後での層間交換結合のスペーサ厚依存性に違いが見られる.Fe/Y積層膜では,薄いY層厚領域で反強磁性的(AFM)結合が観測され,水素注入により弱いAFM結合へ変化する.一方,Fe/La積層膜では,水素注入により強磁性(FM)結合領域が拡大する.この違いは,Fe/YとFe/La界面でのラフネス(粗さ)の違いに起因している. (2)水素注入による層間交換結合の温度依存性 Fe/Y積層膜において,AFM結合の温度依存性は水素注入前後で異なる.水素注入前では,AFM結合力は温度の上昇にともない強くなる.この挙動は,隣接磁性層の結合状態の温度上昇にともなう変化と,界面で形成される非常に薄いFe-Y拡散層の低温領域での磁性の発現による.一方,水素注入後では,AFM結合状態は温度に関係なくほぼ一定であり,その結合力は0.10erg/cm^2から0.01erg/cm^2へと弱くなる.この挙動は,水素注入により,非常に薄いFe-Y拡散層がFe層とY-H層へ分解したことと,Y層の電子状態が金属から半導体へ変化したことに起因している. 以上の結果から,水素注入および温度(熱)によりFe/Y積層膜の層間交換結合を制御することが可能になった.
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