研究概要 |
本年度は研究代表者が独自に開発した第一原理相対論配置間相互作用計算プログラムを活用して、種々の遷移金屑化合物におけるX線吸収スペクトル吸収端近傍微細構造(XANES)や電子線エネルギー損失スペクトル励起端近傍微細構造(ELNES)の非経験的解析を行った。 特にLiNiO_2はリチウムイオン二次電池の正極材料としても検討されている重要な物質であるが、この化合物中のNiの電子状態についてはこれまで明確な理解が得られていなかった。例えば、小槻らは磁化率の測定結果および結合距離に基づく検討により、LiNiO_2中のNiは-Ni^<3+>(d^7)の低スピン状態であると報告しているのに対して、MontoroらはNi L_<2,3>吸収端XANESの測定結果およびパラメーターを用いた経験的な理論解析からNi^<2+>(d^8)の高スピン状態であると報告しており、互いに矛盾していた。 そこで第一原理相対論配置間相互作用計算プログラムによってLiNiO_2中のNi周辺の電子状態計算を行ったところ、基底状態はNi^<3+>(d^7)の低スピン状態となり、小槻らの考えを支持する結果が得られた。また、この状態を始状態としてNi L_<2,3>吸収端XANESの理論スペクトルの計算を行ったところ、小山らによって測定されたNi L_<2,3>励起端ELNESの実験スペクトルを非経験的に再現できることが解った。したがって、本研究によってLiNiO_2中のNiの電子状態について初めて矛盾のない結論を得ることに成功したと考えられる。
|