本研究ではシロキサン樹脂中に残存する揮発成分(主として水)の急速揮発挙動(発泡)によるシロキサン樹脂母体のセラミックの低密度化・軽量化を企図した。珪素のエチルアルコキシドを加水分解し、室温下で縮合重合させて得られるシロキサン樹脂固体を500度以上の温度で輻射伝熱を効率的に利用して過熱すると樹脂中に残存した僅かな水が揮発し気泡を形成する。気泡生成による閉孔空隙率は急速加熱条件及び加熱前の重合度の調整により70%迄大きくすることが可能になった。形成した高密度発泡構造の特徴として、極めて閉孔性が高いことが挙げられる。これは一般にやや水に弱いシロキサン樹脂の耐水性を向上させる上で非常に有利な特性である。また、形成された泡の平均径は概ね10nmのオーダーであり、これは通常の樹脂発泡で見られる発泡形成型閉孔の系の約千分の一の大きさであり、従来の発泡構造と比較して極めてきめの細かい泡が得られていることは発泡現象として極めて新しい発見ということが出来る。 発泡構造に影響与える支配因子として、以下のものを見出した。 (1)輻射伝熱の温度:400度以下では発泡しない。450度では極めて小さい発泡痕がTEM観察によって見られ、そのサイズは1nm前後である。これは所謂発泡現象における泡の核として現在実際に観察されたものとしては最も小さい部類のものである。泡の系は加熱温度とともに上昇するが、加熱温度がある程度よりも高いときはどうしても周囲のシロキサン樹脂が非常に急速に固化してしまうので、50nm以上には系はならない。 (2)加熱処理前のシロキサン樹脂の重合の程度:輻射による急速加熱の前段階として、200度前後の温度で予備的に加熱乾燥し、シロキサン樹脂の重合度をある程度調整することが出来る。重合の程度が不足の時は発泡の程度の最大値(最大空隙率)は小さくなる。これは風船が膨らむ時のような発泡現象の途中でシロキサン樹脂が亀裂破壊を起こしてしまう為である。輻射加熱前に長時間200度から300度の温度で保温保持により乾燥することによりシロキサン樹脂の重合が充分に進み、輻射加熱の際に樹脂が亀裂を起こさずに均一な5nm-10nmの球形の泡を高密度で形成して高い閉孔空隙率を得ることが出来る。
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