新高温構造材料としてのNi基化合物複相材の開発、力学特性の改善

2003 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 15760524
• 研究機関: 大阪大学
• 研究代表者: 萩原 幸司 大阪大学, 大学院・工学研究科, 助手 (10346182)
• キーワード: 塑性変形 / 転位 / 異常強化挙動 / Ni基化合物 / 超周期規則相 / HRTEM / 結晶構造 / 状態図

研究概要

本年は、本研究でターゲットとする化合物複相結晶の構成相である、最密充填(GCP)構造を有するNi_3X型化合物相自身に着目し、その塑性挙動をより詳細に明らかにするという観点から研究を行った。最密充填(GCP)構造を有する化合物の結晶構造は、共通の最密面の積層周期により特徴づけることができる。幾つかの多元系中では、非常に長周期の規則構造を有する準安定相の存在も報告されているが、その構造、熱的安定性については未だ不明な部分が多い。さらに、この積層構造の違いが塑性挙動、活動すべり系に与える影響に関して、その知見は極めて少ない。そこで本研究ではD0_<24>型Ni_3TiをベースとしたNi-Ti-Nb系に着目し、準安定相として現れる長周期相の構造解析を行うとともに、圧縮試験によりその塑性挙動を明らかにし、積層構造と塑性変形挙動との相関について検討を行った。
この結果、状態図上ではD0_<24>構造単相である、Ni_3(Ti_<1-x>Nb_x)[x=0〜0.12]の組成域において、異なる積層構造を有する数種の準安定相の存在を見出した。具体的には、ベースであるD0_<24>-Ni_3Tiでは最密面がABACの4層周期を示すのに対し、x=0.10,0.03の結晶(以下それぞれ10%Nb、3%Nb材と表記)では、それぞれ9、18倍周期の積層構造が確認された。HRTEM観察を行うことにより、その詳しい積層順序についても同定を行った。両者はともに高温、長時間の焼鈍で4倍周期のD0_<24>構造へと遷移するが、10%Nb材においてはその過程で10倍周期構造の発現も確認された。さらに本研究では、FZ法を用いることにより、それら異なる積層構造を有する各結晶を単結晶化することに成功した。これを用い、その塑性挙動について調査を行い、この結果、各結晶の積層構造の違いは、塑性挙動に大きな変化をもたらすことが明らかとなった。具体的には、10%Nb材(9層周期構造)では、Ni_3Tiと比較とは異なる結晶面で非最密面すべりが生じるものの、そのCRSSはNi_3Ti中と同様の温度依存性を示し、また最密面すべりにより、Ni_3Tiと同様、顕著な異常強化現象が発現した。しかし一方3%Nb材(18層周期構造)では、Ni_3Tiと比較して、非最密面すべりのCRSSが大幅に上昇すると共に、これに伴い最密面すべりにより発現する異常強化現象の程度が大きく低下した。本結果より、積層構造の変化は非最密面すべりのみならず、最密面すべりにも強い影響を与えることが示唆された。

研究成果

• [文献書誌] K.Hagihara, T.Nakano, Y.Umakoshi: "Plastic Deformation Behavior of Oriented Ni_3Sn Crystals with D0_<19> Structure"Scripta Materialia. Vol.48,No.5. 577-581 (2003)
• [文献書誌] K.Hagihara, T.Nakano, Y.Umakoshi: "Plastic Deformation Behaviour in Ni_3Ti Single Crystals with D0_<24> Structure"Acta Materialia. Vol.51,No.9. 2623-2637 (2003)
• [文献書誌] K.Hagihara, T.Nakano, Y.Umakoshi: "Slip System, Dislocation Structure and Plastic Deformation Behavior of Ni_3Ti Single Crystals with D0_<24> Structure"Materials Science Forum. Vol.426-432. 1709-1714 (2003)
• [文献書誌] K.Hagihara, T.Nakano, Y.Umakoshi: "Plastic Deformation Behavior of Ni_3X(X=Nb,Ti,Sn)Type HCP-Based Intermetallics with the Geometrically Close-Packed Structure"Mat.Res.Soc.Symp.Proc.. Vol.753. 357-362 (2003)